時長特定准教授・向川教授らが北極温暖化に関する論文を発表

時長宏樹白眉センター特定准教授、向川均防災研究所教授、 Shang-Ping Xieカリフォルニア大学スクリプス海洋研究所教授の日米共同研究グループは、最新の観測データベースと地球規模の大気や海洋の動きのシミュレーションを用いて、20世紀前半の北極圏温暖化を再現することに成功しました。20世紀前半の北極圏温暖化は現在の気候変化に伴う北極圏温暖化とは異なり、温室効果ガスの影響が小さく、海氷の融ける量も少なかったという特徴があります。そのため、気候に内在する何らかの自然変動が原因であると考えられてきましたが、メカニズムは不明でした。今回の研究を通して、熱帯太平洋や北大西洋といった北極から比較的離れた海域の海面温度上昇が大気の動きに影響を与え、地表付近の熱を北極圏へ運ぶことで温暖化が加速することが分かりました。

論文は2017年5月31日 (日本時間)、米国科学アカデミー紀要(PNAS)にオンライン掲載されました。詳細はこちらからご覧ください。

Tokinaga, H., S.-P. Xie, and H. Mukougawa, 2017: Early 20th-century Arctic warming intensified by Pacific and Atlantic multidecadal variability, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, doi:10.1073/pnas.1615880114

20世紀前半に起こった北極圏温暖化の模式図

日本気象学会2016年度秋季大会

2016年10月26〜28日に日本気象学会2016年度秋季大会が名古屋大学で行われました。当研究室からの発表は以下の通りです。

  • B202 榎本剛,吉田聡,山崎哲,中野満寿男,山根省三,山口宗彦,松枝未遠「2013年台風第3号Yagiの予報実験」
  • P319 吉岡大秋,榎本剛「アンサンブルダウンスケール実験による台風発生メカニズムに関する解析―2016年ハリケーンPALIの事例―」

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激甚化する台風・爆弾低気圧起源の災害ハザード予測研究ワークショップ2016

2016年10月6〜7日九州大学伊都キャンパスで科学技術研究費補助金基盤研究(A)「激甚化する台風・爆弾低気圧起源の災害ハザード予測研究」(研究代表者 川村隆一 九州大学大学院教授)のキックオフワークショップが開催されました。榎本准教授(連携研究者)が「OpenIFSを用いた予測実験」というタイトルで,現業数値予報モデルを用いた台風や爆弾低気圧の予測研究の意義について講演しました。

イタリア・ラクイラでのサマースクール

榎本准教授がイタリア共和国ラクイラで開催された国際サマースクールに参加しました。International Summer on Atmospheric and Oceanic Sciences(国際大気海洋科学サマースクール)と名付けられたこのサマースクール,2000年から始まり,今回が14回目とのことです。 今回のテーマは,「地球システム科学のための高度プログラミング手法」でした。並列計算や最適化,メニーコア及びGPUの利用,高性能計算のための仮想化,ウェブ技術を応用した分散データ処理などを学びました。また,榎本准教授はルジャンドル陪函数の高精度計算手法に関するポスター発表を行いました。聴衆のうち,米国海軍の気象関係者はスペクトルモデルの高解像度化に携わっており,榎本准教授の手法が参考になると喜んでいました。

ラクイラの様子

2016年8月24日にもイタリア中部で大きな地震がありましたが,2009年4月6日に発生したマグニチュード6.3の地震でラクイラは大きな被害を受けました。7年間以上経過した現在でも旧市街ではあまり復旧・復興が進んでいません。石造りの建物の多くは倒壊を防ぐ補強が施され,多くの通りは通行ができません。各国政府の協力で少しずつ復旧が行われており,昼間は工事関係者が多数働いています。中心部の店の多くは空いていませんが,カフェやレストラン,バーは営業しており,夜は賑わっていました。インフラの復旧も課題であるとのことです。私は地震や建物が専門ではないので,きちんとした調査ではないことをご了承下さい。

鉄骨で補強された建物

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近代的な建物も被害を受けている。

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内部修理中のサンタ・マリア・ディ・コレマッジョ大聖堂(Basilica di Santa Maria di Collemaggio)と修繕が終わり内部の見学ができるサン・ベルナルディーノ大聖堂(Basilica di San Bernardino)

 

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スペイン城砦(Forte Spagnolo)と2012年11月に復旧工事が完了したナポリ門(Porta Napoli)

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城壁の外は復旧し人がたくさん暮らしているが,内側では壊れて放置されている建物も多い。

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南シナ海における追加のゾンデ観測の影響

南シナ海における追加のゾンデ観測の影響について,アンサンブル再解析ALERA2を用いて評価した論文が出版されました。

Miki Hattori, Jun Matsumoto, Shin-Ya Ogino, Takeshi Enomoto, Takemasa Miyoshi, 2016: The Impact of Additional Radiosonde Observations on the Analysis of Disturbances in the South China Sea during VPREX2010. SOLA, 12, 75–79, doi:10.2151/sola.2016-018.

榎本准教授のルジャンドル陪函数の計算手法に関する論文

榎本准教授のルジャンドル陪函数の計算手法に関する論文がSOLAに掲載されました。

解説

地球大気の全球シミュレーションには,大気大循環モデルと呼ばれるコンピュータプログラムが利用されます。地球大気の流れが従う物理法則は偏微分方程式で記述されていますが,コンピュータプログラムでは時空間に飛び飛びの値で計算する形式への書き直し(離散化)が必要です。水平方向の離散化では,球面上に格子を配置するとともに,大気の流れを様々な空間スケールの波で表現することができます。球面調和函数は,球面上の波を表現するための函数で三角函数とルジャンドル陪函数との積で表現されます。

計算機性能の向上に伴って,細かい構造を表現するために高次高階のルジャンドル陪函数が利用されるようになりました。例えば,水平方向に10 kmの解像度を得るためには1279までの波数(切断波数)の波が利用されます。ルジャンドル陪函数を3点漸化式で計算した場合,切断波数が1700を超えるとルジャンドル陪函数の値が倍精度の範囲内では不正確になり格子点での値と波の振幅との変換がうまくいかなくなります。榎本准教授は,この問題を解決するために,4点漸化式を用いることが有効であることを示しました(Enomoto et al. 2008)。他方,Fukushima (2011)は,拡張浮動小数点数を用いて3点漸化式でも高次高階のルジャンドル陪函数が計算できることを示しました。

今回の論文では,切断波数が10000を超える場合に4点漸化式を用いた手法に生ずる新たな問題の解決方法を示すとともに,改良された4点漸化式を用いた手法と拡張浮動小数点数を用いた3点漸化式とを比較しています。その結果,改良された4点漸化式を用いた手法は精度の点で,拡張浮動小数点数を用いた3点漸化式は速度の点で有利であることが分かりました。この研究の成果は,精度の良い高解像度大気大循環モデルの開発の鍵となると考えています。

関連論文

謝辞

本研究はJSPS科研費 15K13417の助成を受けたものです。

榎本准教授らのアンサンブル感度解析に関する論文

榎本准教授らのアンサンブル感度解析に関する論文が気象集誌に掲載されました。

解説

感度解析とは,ある領域(検証領域)の予測に最も影響のある領域を特定する手法です。検証領域の予測を改善するために,特定された領域をより詳しく観測するターゲット観測に役立つ情報です。例えば,日本に温帯低気圧や台風が接近しているとします。日本の予報をよくするために不足している情報は,必ずしも低気圧や台風の周辺だけとは限らず,離れた場所からの影響が及ぶことがあります。従来は,接線型モデルや随伴モデルと呼ばれる複雑な大気大循環モデル(大気の物理法則を表すコンピュータのプログラム)を変形したプログラムを苦労して作成する必要がありました。榎本准教授らが開発した手法では,接線型モデルや随伴モデルを使わずに週間アンサンブル予報などのデータから情報が抽出できます。

関連論文

野口さんらの成層圏の予測可能性に関する論文

野口さんらの成層圏北極点温度の予測可能性に関する論文が気象集誌に受理され、暫定版(EOR)がウェブ掲載されました。

  • Noguchi, S., H. Mukougawa, T. Hirooka, M. Taguchi, and S. Yoden, 2014: Month-to-month predictability variations of the winter-time stratospheric polar vortex in an operational one-month ensemble prediction system. J. Meteor. Soc. Japan, 92, http://dx.doi.org/10.2151/jmsj.2014-603.

解説

この論文では、気象庁現業1ヶ月アンサンブル予報データを用いて、成層圏における予測可能性の特徴を記述しました。その際、かつて E. N. Lorenz が行った手法(ロジスティック方程式を用いた誤差成長特性の推定)をスプレッド(アンサンブル予報間のばらつきの指標)の時系列に対して適用することで、対流圏から成層圏までの予測可能な期間の上限を定量的に見積もることが可能となりました。これにより、成層圏における予測可能な期間(20~35日)は対流圏(14日)よりも長く、季節進行への依存性が大きい等の統計的特徴を示すことができました。また、系統的誤差とその原因についても解析しています。

大気運動のカオス的性質の発見およびその予測可能な期間の見積もりを行った Lorenz による研究以降、数値天気予報の分野では様々な発展がなされてきましたが、アンサンブル予報の現業化は特に大きな出来事でした。これにより、初期値の不確実性がどのように時間発展するかについての情報(スプレッド等)が得られるため、これまでに蓄積されてきた大量のアンサンブル予報データは、当時それを単一の予報結果から推測するしかなかった Lorenz らからしたら喉から手が出る程欲しいものであったと考えられます。本論文では、そのような現在のデータを用いて、彼らの為したかったことを成層圏まで拡張して行いました。

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