Kalnay教授の教科書を読了

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応用気象学ゼミナール1A, 1B, 1C, 1D(向川・榎本・井口)で,平成25年度から読み始めたKalnay教授の教科書 Atmospheric Modeling, Data Assimilation and Predictability(大気モデリングとデータ同化,予測可能性)を今日全て読み終えました。この教科書は,数値天気予報の基礎となる気象力学,大気大循環モデルとデータ同化の仕組み,予測可能性とアンサンブル予報についての入門書です。

受講生の感想

  • この厚さで数値予報に関する様々な項目に触れていて、やっぱり良い本だと思い ました。ちょっと掘り下げてレジュメを作った部分などは今読み返すと感慨深いです。面白かったです。(災害気候D2野口峻佑さん )
  • モデルの中身やデータ同化の仕組みなどについて知ることができ、また特に予測可能性の章はとても興味深く、面白く読ませて頂きました。実際の天気予報と直結する話も多かったので、とても良い勉強になりました。(災害気候M2山田賢さん)
  • 最後まで読み進めることができて感激です。本読みゼミでは毎回のように議論 が起こり、理解を深める助けになりました。自分個人としては集中講義では理解できなかった、特異ベクトル、リアプノフベクトルについて理解できたことが なにより嬉しいです。(災害気候M2上田学さん)
  • データ同化の基礎の部分から学ぶことができ、今まで自分の中でぼんやりとしていたデータ同化についての理解が確実に深まりました。修士課程に入ってからずっと継続していた本読みゼミだったのでついに読了できて感慨深いです。(暴風雨・気象環境M2井岡佑介さん)
  • 第6章から参加させていただき、途中参加ということから、本文を読み進めて行く上で理解できない言葉や数式が多々ありました。しかしその都度先生方や先輩方が丁寧に教えてくださり、なんとか読み進めることが出来ました。ありがとうございました。(暴風雨・気象環境M1山本雄平さん)

参考

榎本准教授に世界気象機関から感謝状

世界気象機関(WMO)は,世界天気研究計画(WWRP)の下で2005年から2014年までの10年間に渡り研究プロジェクトTHORPEX(観測システム研究・予測可能性実験)を実施してきました。その成果を総括するために2014年11月17〜18日にジュネーブで開催されたTHORPEX国際中核運営委員会(榎本准教授は不参加)において,THORPEXに対して顕著な貢献をした約200名(うち日本人12名)に感謝状を授与しました。榎本准教授は,一人として選ばれました。

榎本准教授の話

会合に出席された気象庁の方から感謝状を郵送していただきました。思いがけない感謝状を,大変うれしく思います。研究者として駆け出しの頃に東京で開催された国際会議に参加した際,THORPEXの提案者の一人Mervin A. Shapiro博士と出会いました。THORPEXは,予測可能性の限界に取り組む研究計画で,數値気象予報を社会に活かしていこうしていて,国際協力や現業予報機関と大学・研究機関との連携を重視しているとの説明を受け,その趣旨に共感しました。Shapiro博士は,地球シミュレータ用大気大循環モデルAFESで行った超高解像度(10 km,当時としては超高解像度)シミュレーションに興味を持ち,地球規模で連鎖する局地的な顕著現象を再現できると期待したようです。日本気象学会にTHORPEX研究連絡会を設立することを提案したり,中欧に歴史的な洪水をもたらした切離低気圧や日本に猛暑をもたらした高気圧のシミュレーション研究などに取り組んだりしてきました。THORPEXをきっかけとして,この10年間でデータ同化や予測可能性が,日本でも研究対象として認知されてきたと思います。今後もこの分野の研究に一層努力して取り組みたいと思います。

参考

  • WMO (World Meteorological Organization) 世界気象機関。国連の機関の一つ。気象庁による説明
  • THORPEX (The Observing System Research and Predictability Experiment) 観測システム研究・予測可能性実験。數値天気予報の予測精度向上とその高度利用を目的とした研究計画
  • AFES (Atmospheric General Circulation Model for the Earth Simulator) 地球シミュレータ用大気大循環モデル

野口さんらの成層圏の予測可能性に関する論文

野口さんらの成層圏北極点温度の予測可能性に関する論文が気象集誌に受理され、暫定版(EOR)がウェブ掲載されました。

  • Noguchi, S., H. Mukougawa, T. Hirooka, M. Taguchi, and S. Yoden, 2014: Month-to-month predictability variations of the winter-time stratospheric polar vortex in an operational one-month ensemble prediction system. J. Meteor. Soc. Japan, 92, http://dx.doi.org/10.2151/jmsj.2014-603.

解説

この論文では、気象庁現業1ヶ月アンサンブル予報データを用いて、成層圏における予測可能性の特徴を記述しました。その際、かつて E. N. Lorenz が行った手法(ロジスティック方程式を用いた誤差成長特性の推定)をスプレッド(アンサンブル予報間のばらつきの指標)の時系列に対して適用することで、対流圏から成層圏までの予測可能な期間の上限を定量的に見積もることが可能となりました。これにより、成層圏における予測可能な期間(20~35日)は対流圏(14日)よりも長く、季節進行への依存性が大きい等の統計的特徴を示すことができました。また、系統的誤差とその原因についても解析しています。

大気運動のカオス的性質の発見およびその予測可能な期間の見積もりを行った Lorenz による研究以降、数値天気予報の分野では様々な発展がなされてきましたが、アンサンブル予報の現業化は特に大きな出来事でした。これにより、初期値の不確実性がどのように時間発展するかについての情報(スプレッド等)が得られるため、これまでに蓄積されてきた大量のアンサンブル予報データは、当時それを単一の予報結果から推測するしかなかった Lorenz らからしたら喉から手が出る程欲しいものであったと考えられます。本論文では、そのような現在のデータを用いて、彼らの為したかったことを成層圏まで拡張して行いました。

関連論文

榎本准教授が提案した科研費Bが採択

榎本准教授が研究代表者として提案した「台風進路予測の変動メカニズムの解明」(科学研究費基盤研究B)が採択されました。 研究期間は,平成26年度から5年間を予定しています。 この研究では,台風の進路予測がときに大きく外れる原因について,複数の大気大循環モデルと複数の初期値を使い「たすき掛け実験」などをして調べることにしています。

気象研究所台風研究部コロキウム

宮地さんが気象研究所台風研究部コロキウムで台風の進路予測に関する修士論文について発表しました。 山口宗彦研究官他気象研究所の皆さんにお世話になりました。ありがとうございました。

Title: NCEP-GFSを用いた複数解析値からの台風進路予報実験

Presenter: 宮地哲朗・榎本剛(京大防災研)

Abstract: NCEPの全球予報モデルGlobal Forecast System(GFS)を用いて、NCEP、ECMWF、気象庁の解析値を初期値とした 進路予報実験を行い、進路予報誤差が初期値の違いとモデルの違いによりどのような影響を受けるのかを調べた。

2009年に北西太平洋で発生した22個の熱帯低気圧の平均進路予報誤差は、NCEP初期値の場合に比べ、 ECMWF初期値を用いた場合は改善し、気象庁初期値を用いた場合は悪化した。

台風第20号Lupitの北への転向の予測は、初期値の交換により予測が大きく改善し、初期値の再現性が重要である ことが分かった。この結果は、気象庁のモデルを用いたYamaguchi et al.(2012)の結果と一致する。 Yamaguchi et al.(2012)で予報モデルの重要性が指摘されていた台風第17号Parmaの事例では、 気象庁予測に見られた北進バイアスは、気象庁初期値を用いたGFSによる予測では減少し、予報モデルの違いによる 改善が見られた。しかし、NCEP初期値では見られない北進バイアスが依然残っており、初期値の違いの影響も示唆された。

最後に、初期値の渦成分と環境場成分を互いに入れ替える実験を行い、初期渦の違いが予測誤差に与える影響を調べた。 Parmaの事例では、初期渦の鉛直構造に違いが見られたが、予測進路は環境場成分として用いた初期値の結果とほぼ同じ進路となり、初期環境場の再現性が重要な事例であったと考えられる。

急速に発達する低気圧の予測可能性

JAMSTECの吉田さんと榎本の共著論文が米国気象学会の_Monthly Weather Review_に掲載されました。

この論文は,北太平洋において急速に発達する低気圧の予測可能性について調べるため,Yoshida and Asuma 2004に基づいて,オホーツク海・日本海 (OJ) 型と太平洋 (PO) 型に分類し,アンサンブル大気再解析データALERAを使って,観測による修正やアンサンブルメンバー間のばらつきについて分析したものです。 詳しく調べた結果, OJ型の中心は上層の谷の予測の誤差が原因で北にずれて予測される傾向があり, PO型は予測モデルの潜熱加熱が弱いために弱く予測されることが分かりました。 また, OJ型は非断熱加熱に伴って低気圧中心の南西側のばらつきが大きく,PO型は潜熱加熱に伴って低気圧中心のばらつきが大きいことが分かりました。