Pythonによる気象データサイエンス#
まえがき#
近年台風や梅雨前線,爆弾低気圧に伴う顕著な気象や猛暑・冷夏や暖冬,寒波・大雪のような異常天候が数多く発生しています。その背景には,自然に内在する変動だけでなく地球温暖化や都市化など人間活動の影響が指摘されています。気象や気候への関心が高まる中,観測や予測データは飛躍的に増大し,容易に入手できるようになってきました。同時に,データを解析し可視化するための道具も進化し続けています。宝の山に眠る有益な情報をいかに取り出し,気象や気候の診断や予測,そして理解につなげるかが問われています。
本書は,気象や気候データの解析にこれから取り組もうという読者を対象として,現在最も人気のある言語の一つであるPythonを使った気象データサイエンスについて解説します。気象データサイエンスは,気象学はもちろん,統計学,線型代数学,情報理論,推定論に基盤を持ち,発展著しい機械学習とも深いつながりがあります。本書はこれらの教科書やPythonのドキュメントの代りになるものではなく,ライブラリの解説書でもありません。本書は,実際に手を動かしてデータを可視化し解析することによって,気象に対する理解を深めることを目的にしています。
本書は次のような構成になっています。まず,教科書で目にするような図を自分で描いてみることからはじめます。プログラミングがはじめての読者も,いくつか図を描くうちにPythonになじんでいきましょう。次にさまざまなデータの扱い方を学びます。気象データには,テキストやバイナリなどさまざまな種類があり,独特のフォーマットが用いられています。これらを読んで処理する方法を身につけます。後半は,気象データ解析の実例を示します。梅雨前線や偏西風,台風などを例にした力学・熱力学解析や,年々変動データ及びカオス系を題材にした統計解析を行います。
気象学と気象データの扱い方や解析手法の基礎を身につけて,より大きなデータや高度な解析に取り組み,読者が業務や研究で成果を上げてくれることを期待しています。